※放散虫について(作品注意点)

コラムに記述していた内容を、個別ページに移動したものです。2020年9月現在の情況に合わせて、少し加筆修正をしています。

博物系のお店の企画展で取り扱っていただいたり、SNSでの放散虫系の繋がり、といったところから、放散虫をガラスで作っている人、という認識でここを覗かれている方もいらっしゃるかと思いますので、私の作っている放散虫をモチーフにした作品について、少し書いておこうと思います。

一部で、博物学的な対象を扱う作品について、学術的価値のある作品とそうでない作品が混同されることへ、憂慮されるお話もあるようですし、作る側がどういうスタンスで作っているのかを明確にすべき対象のようだと私も感じていましたので、その面に重点を置いた説明になります。作品を楽しんでいただくための文面とはなりませんが、ご容赦ください。

まず最初に

前提として、私の作っている作品は、模型ではありません。

特に研究されている方から依頼を受けて作っているものではありません。また、個人としても対象の正確な復元を目指してはおりません。自然の形状として美しいもの、雪の結晶や植物などを今まで作ってきたのと同じように、放散虫という対象を美しく興味深いものとして観察したうえで、ガラスの造形物のモデルとして扱っています。

植物などをモデルにしている場合は分かりやすいのですが、本来は透明でないものを透明化したり、網目状でない部分を網目にしたり、尖りを通常よりも顕著にしたりといった、ガラスの造形作品とするにあたっての構造変更ということはよく行っています。放散虫はもともとがガラス質で網目状の骨格のものも多く、私の作る作品の特徴と類似するため、こういった作品化のための構造変更が客観的に分かり辛い対象ではありますが、例えば網目状で無い部分を細かい網目で表現するといった変更や、本来何重かの重なりがある箇所を作品の大きさによっては簡略化したり、とげの数を間引く、全体のバランスにより角度を調整するといった多くの変更を行っています。

(もちろん、専門に研究されている方がいらっしゃる対象を、門外漢が外から眺めて正確な構造を理解できるものではありません。意図的な構造変更ではなく、知識不足による構造の誤りがある場合も多々あるかと思います。)

私の作る作品は、本来の放散虫の姿の詳細からは異なる部分が多々あります。研究者や専門家の監修やアドバイスを受けられている作品や、博物館等で展示されている模型作品のような、学術的・博物学的価値を求めて鑑賞されるのに適する作品ではないという点にご注意ください。

現状で私の発表している作品は、『放散虫-001』といった形で、放散虫の種類名など正式なものと誤認されるおそれのある名称をつけないようにしています。監修等をうけていない作品については、これからもこのようにしていくつもりです。

作り始めたきっかけ

数年前に本屋で製作対象の資料を探している時に、エルンスト・ヘッケルの放散虫の図を見かけました。網目状の美しい構造を見て、これは作ってみたいなと思っていました。

そのときは他に作る対象があり、そのままになりましたが、作品紹介用のTwitterを始めて間もなく、放散虫に関連するアカウントからフォローを頂きました。最初は放散虫とは何か分かりませんでしたが、気になって調べ始めてすぐに、数年前に本屋で見かけていたエルンスト・ヘッケルの図に行き着きました。ああ、あれだったのか、と、より興味がひかれ、さらに調べていくとガラスと似た成分であるということが分かり、より作ってみたい気持ちが高まりました。多彩な形も魅力的です。

早速、資料になる本を注文して、さらにネットでも情報を集めていきました。

制作をためらわせるもの

調べ始めてすぐに、これは作ってはいけないものなのではないか、という気持ちが生じました。

国内で制作をされている方は数少なく、かなり模型的な要素が強い。WEBで調べる限り、研究者の監修が付いて博物館等へ収められている作品の情報が国内では多く、個人的に制作されているものはほとんど見えてこない。

まだ、制作の対象として一般化しておらず、許容の幅が恐ろしく狭いのではないか・・・。

海外まで調べる範囲を広げたり、時代をさかのぼったりすれば、様々な人がアートや建築物の構造のモデルとして、放散虫を扱っているようですが、現代の日本ではそんな認識はほとんど無いようにも見える。

例えば雪の結晶であれば、リアルな研究レベルのものから、極端にパターン化され、デザインとして用いられるもの、その中間のもの、作る人たちが多数いることで、このような懸念は抱かずにすんなり制作ができます。これまで作っていた対象物はそういったものばかりだったため、こんなことで制作をためらうのは初めてでした。

(この後数年で、放散虫関連の方々の活動によって、自由に制作をされる方が見えてくるようになりました。現在は作りやすい環境ができつつあるのではないかと思います)

制作への踏み切り

作らずにおこうか・・・と、思いながらも、調べる手は止められず、頼まれて量産していた葉脈を作っていても放散虫の網目に見えてくる始末。

そんな状況で悶々としながら数日耐えていましたが、結局作りたい欲求が抑えられず、一つ目の放散虫を作り始めました。

まず作りたいものを図や写真から上げていき、角度違いや同種と思われるものの写真、構造の図解や3D動画など収集し、1つの図や写真から見えない部分を補完していき、形を作る。化石の個々の欠け具合や形状の違いから、少し形状に手を加えていく。ガラスとしてどうすればより美しいか考える。作り始めると楽しく、あれもこれもと作りたい種類が増えていきます。

よくよく考えれば、一般化していると私が考えている対象であったとしても、見る人によって許容の幅はまちまちです。対象の形に忠実でなければ受け入れ難いと考える方もいるかもしれません。それはたくさんの人がそれぞれの価値観と知識を持って生きている限り当然の話です。それを慮って私の制作の方向性が変わるかというと、そんなことはありえないでしょう。放散虫だからといって特別に考えることではなかったのです。

放散虫を、どう作り続けるか

今のところ、まだまだ作ってみたい形状の放散虫がありますので、作り続けるつもりです。

知識的に足りないところを補うように、調べ続けますし、有識者とお話ができるならぜひお話をうかがってみたいとも思っています。それは、より納得できる造形物にするために、本来の構造がどうなっているのかを知ることは重要であると思っているからです。しかし、情報を集めて最終的には形状の正確な復元、模型を作ることを目指すのか、というと、その可能性はとても低いだろうと考えています。

これは私が模型を芸術的価値が無いと思っているからではありません。例えばブラシュカのガラス模型は芸術としか呼べない素晴らしいものであると感じます。しかし、自分の作りたいものとは方向性が違うのです。私自身は、あくまでも自然の美しい構造を反映したガラスの造形物として、模型とは異なる方向で放散虫という対象と向き合っていければ、と考えています。