網目状の細工について
2018/06/22 02:28:39
*** 模倣目的の閲覧はご遠慮ください ***
2020年9月 修正・加筆
2008年頃から、細いガラスを網目状に溶着していく技法をよく使うようになりました。この技法の呼称は、人によって様々あり、厳密な意味でどう区別されているのか私には分かりませんが、『網目細工』という呼び方が一番分かりやすいのではないかと思います。
※『網目細工』というと灯油バーナーを用いた伝統的な技法として紹介されている場合もありますが、最近では様々なガラスや技法を用いた網目細工があります。私の場合、ボロシリケイトガラスという比較的新しい素材を用いて、酸素バーナーで加工していますので、伝統的な網目細工とは異なります。
海外では”networking glass”と呼ばれる技法です。
難しい技法なのか
『基本は簡単、その先は作るものによって難易度が全く違う』
一概に網目といっても、線の細さ・目の細かさ・均一かどうか・平面か立体か、といった多くの要素で難易度は変わります。溶着を繰り返すシンプルな技法ですので、単純な網目は初心者でも作ることができるでしょう。しかし、造形的な作品を作る場合は、ガラスで三次元の絵を描くようなものなので、個人の造形力が大きく影響します。
よく、どうやって作っているのか、と質問を受けますが、手順を示して同じものを作れるものではなく、一つ一つの分岐をどの細さでどの角度で作っていくのか、作りたいものと向き合って自分の頭で処理していく必要があります。
どうしてこの技法を使うのか
この技法を使いたいと考えたきっかけは、葉脈標本のようなレース状の葉っぱを作りたいと考えたことでした。
私は、結晶や植物の脈、生物の骨格など、細かく分岐し繋がっていくような形をとても美しいと感じます。それは、それぞれの分岐に『時間の跡形』を感じ、膨大な時間の積み重ねに感嘆するからかもしれません。そういった構造を取り入れることで自然の美しさの片鱗でも作品に込めることができるよう、できる限り細部までの作りこみを試みているのだと思います。
【補足】『ひずみ』について
時々『ひずみ』に関する質問をいただきます。こんなにたくさんの溶着をしているのだから、『ひずみ』だらけに違いない、とガラス経験者やガラスの知識がある方は考えるようです。
作品内に『ひずみ』があれば、次に火を入れたときには亀裂が生まれたり、作品が冷める途中で割れてしまったりします。網目を作り始めた頃は、そういったこともありましたが、現在はなくなりました。
数え切れないほどの溶着をする作品がほとんどですので、完成までかなりの日数がかかる作品が多いです。このため作業後に時間を置いて冷めた作品をまた火にいれるということを何度も繰り返すことになるのですが、釜で余熱などをせずに火にいれても、作っている最中にクラック音が鳴ることはほぼありません。ひずみだらけであれば、こんなことはできません。
クラック音がなることは、年に数えるほどですが、その場合は箇所を確認し修正、確認できない時は怪しい箇所を全て取り除きます(何百時間が一瞬で消え去ることもあります)。ひとつの作品の制作中にクラック音が何度も鳴るようなことはありませんが、あったとすれば作品として構造に問題があるため表に出さないと思います。もちろん何年も眠っていた作品でも、ひずみが経年で割れるといった現象に遭遇したことはまだありません。
なぜたくさんの溶着をしても『ひずみ』による割れが発生しないのか――。まずは溶着をしっかりすることがとても重要です。そして溶着と同じくらい大事なのが、そのとき作っている造形の各箇所の構造を見て、ひずみやすい箇所の把握とその回避をそれぞれに考えることだと思っています。ここでそれについて一つ一つ書くことはしませんが、釜に入れて徐冷をする以外の方法でひずみを作りにくくしたり、ガラスの性質を利用して衝撃を逃がしたりする方法はいくつかあります。『ひずみ』が生まれる理由と、ガラスが形状によってどういう性質を持つのかを知ることがとても重要になります。
複雑な造形の中には、様々な構造が同居しているため、他人の手技を参考にしてもうまくいかないことが多く出てきます。他人のやっていることではなく、自分が作っている作品を見ること。ガラスという素材に関する知識を蓄え、自分の頭で考えることが何より大事です。
ただし、頭で考えて理論上『いける』と判断したことが全て正しいとは限りません。実際に温度差での割れや経年での割れが出ていないか、常に観察して確認し、予想と違う場合は検証して手法の修正をしなければなりません。そういった実験的な側面、そして構造的な繊細さを考慮し、私は生活で利用される食器や装身具の類を避けています。(イベント用にアクセサリー類を作ることがありましたが、安全性を重視するとオブジェよりも造形と繊細さを抑えなければならないため、積極的には作っていません)
用途によってそれぞれに許容される脆さは異なります。人によって若干認識が変わると思いますが、私は下記のように考えています。
- ①オブジェ
→繊細さ・脆さが許される ②静的な撮影用など限定的な範囲で用いられる小道具・装身具 - ③日常に使用する雑貨や装身具
→ある程度の強度が必須 - ④実験器具や調理器具・工業系の道具など
→ひずみ計で図って充分な安全が確認されたもの
→繊細さ・脆さがある程度許容される
自分が作っているものは、造形を重視して脆さを含む構造のものが多いため、基本的には①オブジェ、話し合いで合意が取れれば②まではOK。③は作品性に影響を及ぼさない範囲で安全が確保できる対応ができれば作るが、基本的には作らない。④は作らない。という方針で制作をしています。『ひずみ』というものについて、独自の対応をしている場合には、それが用途に適しているのかは自分で見極めることも、必要になります。